The Vessel
こんにちは。タクトデザイン工房のココです。
私がとても印象に残っているヘザウィック・スタジオ建築のもうひとつを、
みなさんにもシェアしたいと思います。
この建築を見て、
「なぜこんなに階段が多いのだろう?」
と感じませんか?
実は、その「階段」こそが、
この建築のいちばん大切なテーマなのです。
この建築は、ニューヨーク・ハドソンヤードに建てられた
The Vessel(ザ・ヴェッセル)。
ヘザウィック・スタジオによってデザインされました。
一見すると、
巨大なオブジェのようにも見えますが、
中に入ると、その印象は大きく変わります。
この建築には、
部屋も、店舗も、オフィスもありません。
あるのは、
ひたすら続く階段と踊り場だけです。
普通、建築における階段は、
「どこかへ行くための手段」です。
上の階へ行くため、
別の空間へ移動するための存在です。
でも、The Vessel では違います。
ここでは、
階段を使うこと自体が目的になっています。
どこかにたどり着くためではなく、
登ること、降りること、立ち止まること、
その一つひとつの動きが、
建築体験そのものとしてデザインされています。
階段を上ると、
視線の高さが少しずつ変わり、
見える景色も、光の入り方も変わります。
息が少し上がったり、
足取りがゆっくりになったり、
自分の体の動きにも自然と意識が向きます。
この建築は、
「見る建築」ではなく、
**「身体で感じる建築」**なのだと思います。
また、この建築のもうひとつの特徴は、
どこにも「正解のルート」がないことです。
上に行くか、横に進むか、
それとも戻るか。
すべてを、自分で選びます。
その結果、
同じ建築の中にいても、
人それぞれ違う体験が生まれます。
さらに、階段越しに見えるのは、
街の景色だけではありません。
上や下、向かい側を歩く、
他の人の姿も自然と目に入ってきます。
この建築は、
人と人の動きが交差する、
立体的な「広場」のようでもあります。
建築の基本要素であるはずの「階段」が、
ここでは主役になっています。
機能を支えるための存在ではなく、
空間そのものをつくり出す要素として
階段が使われている。
The Vessel は、
「建築には必ず明確な用途が必要なのか?」
そんな問いを、
静かに投げかけてくる建築だと感じました。
インテリアや建築を考えるとき、
私たちはつい「何を置くか」「どう使うか」に
意識が向きがちです。
でも、
人がどう動き、どう感じるか。
その積み重ねこそが、
空間の印象をつくっているのかもしれません。
この建築は、
そんなことを改めて考えさせてくれる存在でした。
